【だんらんストーリー】食べる胃瘻・食べない胃瘻

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胃瘻を作るということは、本人やご家族からすれば、とても大きな決断です。その決断に至るまでの過程は、本当に千差万別です。今日はそのお話。

食べる胃瘻

先日、Youtubeのびぃどろチャンネル(☆)に「胃瘻でも食べたい」という動画をアップしました。この方は、入院時に胃瘻を作り自宅に退院。本人・ご家族の希望もあり、経口摂取を再開した方です。まさに「食べるための胃瘻」を作った。そんな方です。

全て順調にことが進んだわけではありませんが、紆余曲折しながらもどうにか入院中に経口摂取の練習を始め、自宅退院後も継続的に練習し、その後いろいろと問題はありながらもなんとかデイサービスでの食事が再開できた、そんな方です。

なぜ食べられたか?

これを達成できたその理由は何か?

一番は「想い」というのが強いです。本人の「食べたい」、家族の「食べさせたい」という強い想いが根底にあり、それに対して私の活動として、デイサービスへ訪問することが許されました。そして、私が食べさせる様子を見て、デイサービス職員の間でも「食べられるんだ」という想いが芽生えました。

一度は諦める話も出たのですが、デイの管理者の方が担当者会議にて「食事介助をさせてください」とおっしゃっていただいたところから状況が大きく変化し、なんとかスタッフさんでの食事介助へと行き着くことができました。

ありがたい限りです。

しかし、みんながこんな風には行かない部分もあります。

胃瘻を作るタイミング

例えば進行性疾患や発達障害、加齢などにより、徐々に食べられなくなった方の場合は難しさが残ります。

昨日より今日、今日より明日が悪くなる状況。
昨日食べられていたものが、今日食べられるとも言えない。

そういう状況の中、誤嚥性肺炎を引き起こし入院。「食べられないから胃瘻にしましょう」となった場合、どのようにご家族は考えるのでしょうか?

私のご利用者さんには発達障害等を抱えるかたが非常に多くいらっしゃいます。なんとか食べ、誤嚥性肺炎を繰り返しながらも、どうにか退院して食べ。それを繰り返します。「胃瘻を検討されては?」と繰り返し周りからは言われながらも、なかなかタイミングを見極めることができずに、「まだ食べられるから」「本当に食べられなくなったら」といいながら、食べている。そういう状況の方も、実際、多くいらっしゃいます。

脳梗塞や急な状態増悪により入院され、「胃瘻を」と言われる場合、ある程度状況からの判断ができるのですが、毎日食事を摂っている状況では、「いつ」胃瘻にしたら良いのか、わかりにくいのですね。

そう、胃瘻を作るタイミングって、こういう方は難しいのです。

絶対に胃瘻は作りません

先日のご利用者さんはまさにそう。40歳代の進行性のご病気をお持ちの方で、お母さんがなんとか頑張って食べさせていました。水分がなかなかとれなくなると点滴をし、ご飯が食べられなくなって「もうダメか」と思うのですが、しばらくするとまた食べられる日が周期的に訪れるため「もう少し食べられるか」と葛藤しながら食べるのです。

先日とうとう誤嚥性肺炎にて入院されました。もちろん入院前日まではご飯を食べています。何度目の入院かもわかりません。

病院は「胃瘻」を勧めました。そしてご家族の決断。「胃瘻にはしません」と。

正直私も驚きました。けれど胃瘻は作らないという意思は、非常に固いのです。

食べない胃瘻

なぜ胃瘻にしないのか。その理由はシンプルなものでした。

お母さんより
「胃瘻を作ったら、私は食べさせることをやめてしまいます。怖いですから。こんなに食べることが好きな子が、胃瘻にする事で全く食べられなくなり、残りの余生を過ごす。それは耐えられません」

このお母さんにとって、胃瘻がない事が、食べさせることのモチベーションになっているんです。

そうか、胃瘻があるから食べさせなくていいんだ、と思ってしまうのか。

食べる人と食べさせる人

嚥下障害があっても、美味しいものを食べたいという気持ちは誰もがあります。そして、それをなんとか叶えるために、ご家族は食べさせるのです。

そう、「食べさせる人」がいて、初めて「食べられる人」がいるのです。

ですから、食べさせる人である「家族」が「もう食べさせられない」と思えば、食事はそこで途絶えてしまうのですね。

これは答えがあるものではありません。「胃瘻があったって、食べさせればいいのに」と周りは思うのですが、やはり一概にそうは言えないのがご家族の想いなのです。

胃瘻を作っても食べる
胃瘻を作ったら食べない
胃瘻を作らず食べる

どんな選択肢もあるのです。そしてどういう決断をするのかを、私たちは支援する立場にあります。言語聴覚士の仕事は時として、酷なものだと思うのです。だからこそ、本人と家族の「想い」をしっかりと聞き、受け止め、最良の決断ができるような支援が求められるのだと思います。

どの選択肢を選んでも後悔しない。後悔させない。そういう支援を届けたい。
これがびぃどろの想いなのです。

【長岡菜都子(だんらんコーディネーター)】
リハビリテーション専門職である言語聴覚士の国家資格を所有。病院勤務を経て、訪問看護ステーションに入職。以後12年間で、訪問リハビリテーションを学ぶ。対象は乳幼児から高齢者まで幅広く、病気や障害を抱えながらも、にいかにして家族とともに充実した温かい生活を送れるかにこだわり、支援している。
現在は病気や障害を抱える当事者に対し、『個別』ではなく、家庭や関係施設へ『戸別』に訪問し、主に「はなすこと」「たべること」に関する、赤ちゃんの育み支援、こどもの学び支援、成人・高齢者の生活支援を行っている。
その他、医療・福祉・介護・教育施設等への外部講師等も行い、「はなすこと」「たべること」のバリアフリーを目指し活動中。

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