【びぃどろ講座】お口のリハビリしてくださいと言われても…

『はぐくむ』について, だんらん作りの知恵袋, 未分類

先日、指導に入っている通所施設のスタッフさんからご相談がありました。
「今日来ているお子さん(高校生)の、お口の動きみてもらえます?」と。
今日は、そのお話。

ご家族からリハビリしてと言われたよ?

そもそも私がその施設に入っている理由は、食事に関しての「評価・職員指導」目的です。ですからもちろんそのお子さん(Aさん)のお口の動きは評価して、職員さんへ指導もします。というか、すでにこれまでに何度かお会いしているお子さんで、指導はできているし、目立つ問題はないけれど、どうしたんだろう?と思ったのです。

すると管理者の方から言われたんです。
「実は、ご家族から“小さい頃からお口が過敏だから、何か通所でして欲しい”と言われたんですね。でも・・・過敏なんでしょうか?」

なるほど。それなら、もう一度見てみましょう。そう思ってお食事の様子を見せていただいたり、お話の様子を見せていただきました。

う〜ん・・・、特に問題ないなぁ。

過敏はあるかもしれない

過敏があるとどうなるかというと、これも人それぞれですが、例えば唇に過敏があればスプーンと触れたくないから唇を閉じないで食べるようになったり、手の平が過敏だから、道具を使う時期がずれたり、お腹が過敏だからずり這いができなくて背中で這って移動するようになったり…そんな二次的な問題が起きてしまうんですね。発達障害を抱えるお子さんの中で、この過敏のせいで、発達の遅れを助長させてしまう。そういうことはしばしばあります。

で、Aさんに関しても確かに過敏はあるのかもしれません。と、いうか、過敏は「あった」のかもしれません。そして、幼少の頃はそれを気にして、訓練をしたりご家庭で熱心に対応してこられたのかな?と思います。

けれど、高校生となった今、Aさんはとても上手にご飯を食べています。お話もできます。もちろん、食事も刻んであげたり、柔らかいものにしてあげる配慮は必要です。また、発音もとっても明瞭!というほどではありません。しかし、食べることを拒否もしませんし、おしゃべりも大好き。歯磨きだってスムーズにできます。

何が問題なのかな?

お口の過敏がある場合

お口の過敏があると困るのが、食べること・話すこと・歯磨き。この3つがとにかく大変になります。歯磨きなんて本当に大変。仰け反って嫌がるし、口開けないし。指入れたら思いっきり噛まれるし。親子で大奮闘!!という感じで、毎日歯磨きタイムは戦争タイムです!というご家庭も多いのです(・_・;

こういう口腔内の過敏症があるお子さんに対して、アプローチする方法はきちんとあり、それはきっと幼少の頃、病院や発達センターのセラピストと経験してこられたはずです。

そしてそこで言われた「お口に過敏があるよ。訓練しようね」の言葉。
それがご家族の中に、今もなお残り続けているのかな?と思ったのです。

けれど、今のAさんは高校生。そう思うと、Aさんなりに小さい頃から自分の過敏と戦って、うまく自分の中で落とし所を見つけて、ちゃんと付き合って…過敏と共存して今の能力を得たのかな、と思えるのです。Aさんすごい!

どうしたらいいですか?の答え

そんなわけで、施設スタッフさんから、Aさんのお口について相談された私。上記のありのままをお伝えしたわけです。

Aさんは、食べることも話すことも上手。もちろん配慮は要ります。でも歯磨きもできているし、過敏があっても食べることを拒否するわけでもない。過敏との付き合い方を獲得している方ですよ。

それでもスタッフさんは「うーん」という表情。結局、ご家族になんと説明していいかわからないようでした。そこで、私からもうひとつ。

幼少の頃、口の過敏を指摘され、一生懸命ご家族とAさんとでその問題に取り組んできた。だから今こんなに上手になった。こんなに過敏とうまく付き合えるようになったなんて、すごいですね。

と、お伝えしてはどうですか?と言ってみると、スタッフさんは納得の表情。年齢的にAさんは高校生。今から口の動きが良くなって、食事の配慮が不要になったり、ペラペラ話せるようになるのは正直難しい。でもこんなに上手に過ごせるようになったことは、明らかにご家族とAさんの二人三脚の賜物なわけです。そこを素直にお伝えすればどうでしょうか?

セラピストにとって「過敏だから」は便利な言葉

私たち発達訓練をする者にとって、この「過敏だから」という言葉はよく使う言葉です。でも過敏だからって、それをすぐに除去できるわけではないし、過敏が取れるまで放置できないし、過敏をとる練習をご家族に丸投げ、っていうのは違いますね。

過敏があることで起きうる二次的な問題を予測して、その過敏による副産物を減らす対応が求められるんです。

また、「過敏があるから」という言葉が、こんなに長くご家族の頭に残ることに、ちょっとビックリしたのが私の今回の学びです。「過敏があること」をネガティブに捉えるのではなく、「過敏と共存できたこと」を誇りに思ってほしいな、そう思ったのです。

育児しているお父さんお母さんって素晴らしい。そのお子さんに障害があり、それを一緒に乗り越えるなんて、本当に素晴らしい。毎日を積み重ねていることを、誇りに思ってもらえたらいいな、そんなことを考えた訪問となりました。

いつも学びをくれる、施設への指導。指導とは名ばかりで、結局は私が学びに行っている?のかもしれませんね。

【長岡菜都子(だんらんコーディネーター)】
リハビリテーション専門職である言語聴覚士の国家資格を所有。病院勤務を経て、訪問看護ステーションに入職。以後12年間で、訪問リハビリテーションを学ぶ。対象は乳幼児から高齢者まで幅広く、病気や障害を抱えながらも、にいかにして家族とともに充実した温かい生活を送れるかにこだわり、支援している。
現在は病気や障害を抱える当事者に対し、『個別』ではなく、家庭や関係施設へ『戸別』に訪問し、主に「はなすこと」「たべること」に関する、赤ちゃんの育み支援、こどもの学び支援、成人・高齢者の生活支援を行っている。
その他、医療・福祉・介護・教育施設等への外部講師等も行い、「はなすこと」「たべること」のバリアフリーを目指し活動中。

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。

関連記事一覧